東京高等裁判所 昭和28年(う)4115号 判決
被告人 田辺菊治 外
〔抄 録〕
一、各供述調書に任意性がないとの論旨について。
論旨は被告人等三名及び高野伍三二の検察官に対する各供述調書にはいずれも任意性及び信用性がないと主張する。本件記録によれば、昭和二十八年一月二十八日における原審第三回公判期日に、検察官は、高野伍三二、桑原市太郎、館野重道、佐藤友作、佐藤猛、岡村勝彦、鈴木晃の検察官に対する各供述調書の証拠調を請求したが相手方の同意を得られなかつたのでその請求を撤回し、同年六月三十日の第八回公判期日において更に前記七名の同供述調書七通を刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号にあたる書面として、又被告人等三名の検察官、検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書合計五通を同法第三百二十一条第一項第二号並びに同法第三百二十二条にあたる書面としてその取調を請求したところ、同年七月二十二日の第九回公判期日において伊藤弁護人はいずれも任意性がないとの理由でその取調請求に対し異議の申立をしたが、原審裁判所はこれを却下して取り調べる旨決定したので同弁護人は更に同様の理由でその取調に対し異議を申し立てた。しかし原審裁判所はこれを却下し前記十二通の供述調書の証拠調をなしたこと、原審判決は右各供述調書を犯罪事実認定の証拠としたことは明らかである。しかして被告人又は被告人以外の第三者の供述が任意になされたものでない疑のある供述であるか否かは、訴訟の進行のすべての状況によつて最も合理的に判断すべきであつて、単に被告人等が公判廷において任意性を争つたからといつて或は先の供述内容が公判廷における供述とちがつているからといつて、直ちに先の供述は任意性を有しないものであると速断することはできない。又警察における供述が仮りに任意になされなかつたとしてもこれが為めに直ちに検察庁における供述が任意性を喪失するものとはいえない。裁判所は、適当の方法により調査をなしその結果その任意性について心証を得ればこれをとつて事実認定の証拠となし得るのであつて、その調査の方法についても格別の制限はなく適当と認める方法によつてなし得るものである。本件記録によれば、前記第三回公判期日において原審検察官は高野伍三二、桑原市太郎、佐藤友作、佐藤猛、岡村勝彦、鈴木晃及び被告人等三名の証人尋問を請求し、原審裁判所はこれ等九名を順次証人として尋問し、併せてこれ等の者の前記供述調書の任意性についても調査していることが認められるから、原審裁判所は、その調査の結果該供述調書は刑事訴訟法第三百二十一条及び第三百二十二条の要件を具備するものと認めたのでこれを事実認定の証拠として採用したものであるといわなければならない。よつて前記供述調書中(但館野重道の検察官に対する第一回供述調書を除く。)の各供述内容を原審におけるそれ等の者の各供述と対照すると、前者は大体自然的であつて各自自己の行為を認めて間違のないところを述べたものと認められ、かつ同供述調書の記載から任意性を疑わしむる点も発見することができない。記録をよく調査しても高野伍三二の所論供述調書が所論のような誘導又は強制によつて作成され、又延いては所論のように右高野の供述調書に基いて被告人等三名が不任意な供述をしたものと認むべき証左はない。結局被告人三名及び前記の者(館野重道を除くこと前同様)の検察官に対する各供述は任意になされたものであることは優にこれを認め得るし又原審公判廷における供述よりも先の供述を信用すべき特別の情状が存在するものと認めるのを相当とするから、これ等の供述調書に証拠能力ありとして証拠調をなし、これ等を事実認定の証拠とした原審裁判所の措置には何等の瑕疵もない。